コンピュータ将棋選手権、クラスタソフトが3位まで独占
[2013年5月8日更新]
この3月から4月に行われた、5つのコンピュータ将棋ソフトと5人の現役プロ棋士の団体戦、第2回将棋電王戦は、コンピュータ将棋側が3勝1敗1分で勝利した。特に最終戦は700台規模のPCクラスタで動作するGPS将棋がA級プロ棋士の三浦弘行八段を破り、コンピュータ将棋が名人に迫る力を持っていることを示した。
電王戦の結果でコンピュータ将棋に注目が集まる中、5月3日から5日に、早稲田大学の国際会議場で第23回世界コンピュータ将棋選手権が行われ、40チームのコンピュータ将棋が激闘を繰り広げた。最終日の決勝に進出したのは、2次予選での順位順で、激指、ponanza、GPS将棋、Bonanza、ツツカナ、NineDayFever、習甦、YSSの8チーム。決勝では総当たりで世界最強のコンピュータ将棋の座を争った。
三浦八段を破った電王戦のときを更に上回る約800台のPCで1秒に2億8千万手を読むGPS将棋が優勢と思われたが、2次予選では1台のPCで動作するツツカナがGPS将棋を破っており、パワーだけで必ず勝てるほど将棋は甘くない。特にコンピュータ将棋選手権は持時間が25分切れ負けというコンピュータにとっても厳しいルール。何が起こるかわからない。実際に最終戦で事件が起こった。
GPS将棋対Bonanza、勝てば優勝という状況で、形勢はGPS将棋が圧倒的に有利。しかし、Bonanzaが粘るなか、GPS将棋の時間が少なくなり1秒の早指しに。そのため、詰みを逃したりしてもつれこみ、ついに時間切れ。勝ったBonanzaの優勝となった。このところ優勝チームは毎回変わっており、今回も昨年優勝のGPS将棋の連覇はならなかった。Bonanzaは初出場で優勝した2006年以来2度目の優勝。
1位Bonanza、2位ponanza、3位GPS将棋はいずれも5勝2敗。4位の激指が4勝3敗とトップレベルのコンピュータ将棋の実力は伯仲している。1位から3位のチームはいずれもPCクラスタで動作(Bonanza35台、ponanza17台、GPS将棋803台)、残りの5チームは1台のPCで動作している。結果としてクラスタで動作する3チームが上位を独占する結果となったが、3チームとも1台のPCのチームに敗れた対局があり、読みの量(速度)だけで勝てるわけではないことがわかる。
将棋ソフトの技術は、並列に読んだり合議したりするたくさんのハードウェア資源を有効活用する技術とともに、プロ棋士の棋譜を手本にして局面の評価関数を自動学習したり、先を読む確率を変化させたり、ソフト面で強くする技術も並行して進化している。今年の選手権でも新しい試みをするチームも登場し、その一つNineDayFeverは初出場で決勝まで進出した。将棋ソフトの開発者は論文やワークショップなどで技術をオープンにすることが多く、BonanzaやGPS将棋などプログラムもオープンソースで公開されている。その技術をベースにして新しいアイデアを加えることにより更に強い将棋ソフトが実現されていく。
おそらく、数年後には家庭用のPC1台で動く市販の将棋ソフトでもプロ棋士に勝てる時代がくるだろう。今回の電王戦の結果を見ても、コンピュータ将棋とプロ棋士の対決という面では意味が薄れ、今後はこの強くなった将棋ソフトを人間がどのように活用するか、という方向に行くと考えられる。実際、詰将棋を解く能力は何年も前からソフトにかなう人間は存在せず、現在では詰将棋ソフトは詰将棋の創作、検討、鑑賞などに活用されている。
将棋でも人間と将棋ソフトが協力して指すアドバンスド将棋の試みが始まっており、また電王戦では観戦者をいかに楽しませるかという観点でいろいろな試みが行われた。将棋ソフトに限った話ではなく、ソフトが人間の知能に追いついてくると、人間がそれを使いこなすことでさらに高みを目指したり、楽しんだりできるようになる。複雑なビッグデータの分析など、人間だけではできなかったことが、人間とソフトウェアが協調して実現される世界がくることを期待している。
第23回世界コンピュータ将棋選手権の対戦表や報道記事、反響など下記にまとめているので、興味のある方は参照されたい。
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