謎の大道詰将棋・詰んだらプロ
[2006年5月28日最終更新]
大道棋・ホントに不詰?第1番はプロ棋士でも詰めることが難しい超難解大道詰将棋であるが、それほどの問題なのに、一度実戦局として図が紹介されただけで作者も作意も不明な謎の大道詰将棋であった。最近、作者から連絡があり、このあたりの事情がわかったので紹介する。
おもちゃ箱のドキドキストリートは大道詰将棋のコーナーである。ここでは、大道詰将棋の問題やさまざまな文献が紹介されている。大道棋・ホントに不詰?もその一つで、これまで不詰とされていたり手順が不明だった大道詰将棋255題をコンピュータで検証し、実は詰みがあることがわかった10題を紹介したものである。
この図はその第1番で、一見普通の香歩問題に思えるが、実際に大道で出題されたらプロ棋士でも詰めることは難しい70手を超える超難解作である。初見の方はぜひ挑戦してみていただきたい。実は、検証を行った平成11年当時はコンピュータでは解けず、上記で紹介している手順は人間が解いたものである。
本局は、詰将棋パラダイス1976年3月号の読者サロンで、北川二郎氏が「大阪京橋での所見です」として図面を紹介した。その後33手で詰む?という投稿もあったが、これは受けの誤りで33手では詰まない。
大阪の京橋で出題していた大道棋屋さんは黒田栄さんといい、常設で出題していた最後の大道棋屋であった。非常に研究熱心な人で、詰パラなどに掲載された問題もすべて自分で解いて研究してから実際に出題していた。この頃、詰パラの大道棋研究室の解答に 某大道棋屋「最初10本取り、二回目8本取り詰められる。仲々の好作」 というような短評が見受けられるが、この某大道棋屋が黒田さんである。
大阪の京橋駅近くの裏通りで毎日店を開いていたが、そのすぐ近くにはなんと将棋道場があり、お客さんは道場で研究してから挑戦してくるのである。そのためにいつも新しい問題を求めていて、詰パラの大道棋研究室の問題のほか、何人か黒田さんに問題を提供していた人がいたようだ。私も「大道棋辞典」の田代さんの紹介で知り合いになり、数局自作の問題を提供したことがある。
残念ながら1975年の暮れぐらいに体を壊して入院してしまい、大道棋研究室の実戦出題報告も奇しくもこの1976年3月号での解答発表が最後となった。黒田さんが作成していた出題のネタ帳は、黒田さんが亡くなられたあと「黒田ノート」として詰パラ誌上で公開されたが、本局はその黒田ノートにも収録されてなく、謎の大道詰将棋となっていた。おそらく最後の頃に出題していたため、収録されないままになってしまったのだろう。
私が約4000題の大道詰将棋を収録した大道棋インデックスを作成したとき、詰パラで紹介された図面を発見した。コンピュータで詰まなかったため不詰かと思ったが、黒田さんは自分で納得のいくまで研究して出題していたので、黒田さんが出題していたからには詰むはず、としつこく研究していたら71手で詰めることができた。そこで、前述の「大道棋・ホントに不詰?」で紹介し、また詰棋めいと27号(大道棋特集)の大道棋名作三十局選にも選題させていただいた(大道棋名作三十局選第7番)。
このような事情で、本局はずっと作者不明のままだったが、最近Webの検索でおもちゃ箱に掲載されている大道棋・ホントに不詰?第1番を見つけた本局の作者から連絡があり、この問題の作者と作意手順が30年ぶりに判明した。その方の名は野中謙一さん。
突然のメールで失礼いたします。私は野中謙一と申します。
20年も以前に詰パラ読者でしたが、それ以来詰め将棋とはご無沙汰しておりました。懐かしさもあって「大道詰将棋」で検索をしてこのホームページを見つけました。驚いたのは、ドキドキストリート の大道棋・ホントに不詰?(1) の第1番に自作が載っていたことです。
当時、自分は大学生で京橋の黒田栄様(某大道棋屋)に詰将棋を作ってご意見をいただいておりました。この作品についての手紙も残っております。この当時、黒田さんと知り合って大道詰将棋の作成に没頭していた時代が懐かしいです。これからしばらくして、黒田さんが体調を崩されて他界されてから自分も詰将棋の熱がさめてしまいました。
この作品が作者不明のままなのが偲びないのですが、自作と認めてもらうことはできないでしょうか。
野中さんはこの頃詰パラの大道棋研究室でも長手数の力作を何局か発表されている。本局も詰パラに投稿したのだが、作意手順75手のところ「61手目34同竜の所から34成香、同金、33角、同玉、43飛成以下で詰みます。」と指摘、返送されたそうである。大道詰将棋としてはあまり問題にならない収束の余詰で、このために詰パラで発表されなかったとは残念なことである。
この作品の黒田さんからの実践報告が記されています。
「この図は私の思った通りの大傑作です。
最初 33本 2回目 18本 3回目 30本取り正解者なし まだまだ取れます」
33本取れたとは、33回お客が手を出してすべて詰めるのに失敗したということ。これだけ商品価値が高い作品は珍しく、この名作、ぜひ挑戦、ご鑑賞いただきたい。作意手順は野中謙一大道詰将棋(1)を参照されたい。おもちゃ箱での手順は71手になっているが、これは変化手順。作意75手順に71手の早詰があるため、どちらでも正解である。
野中さんは、本局以外にも数局黒田さんに作品を提供していた。その中から2局紹介したい。
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上記名作の前に作成した問題。55手。 野中 「黒田さんは、この図に玉方55桂を追加して使用されていたようです。55桂を追加しますと39手目の29香に23角合として手数が伸びます。」 本局も詰パラに投稿したが、35手目22銀のところ39香でも詰むと指摘、返送された。この順は55桂追加の図でも詰む。本局が完全であったら、上記の名作は誕生しなかったかもしれない。 解答:野中謙一大道詰将棋(2) |
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詰パラ1976年7月号大道棋研究室で発表。61手。形が広がっているのが難点だが、妙防が次々繰り出される力作。 黒田さんからの手紙ではなぜか66歩が脱落していて、 解答:野中謙一大道詰将棋(3) |
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コメント
野中謙一(2)
11手で解けました
7二歩
8一玉
8五香
8三金合 金飛以外の合駒なら8二金 同玉 8三桂成 9九玉 8八成桂まで早詰め
7一歩成 飛車が合駒なら9手目 9一桂成が9一飛で詰み
9一玉
8三桂不成
9二玉
9一桂成
9三玉
8四金まで
投稿: 川口大智 | 2012.03.20 21:35
↑
8三金合の前に8四歩合したらどうなるのっと
投稿: 通りすがり | 2012.03.23 01:43
香歩問題の代表的な誘い手ですね。8五香に8四歩合としても、同香、8三金合、7一歩成、9一玉、9二歩以下で詰みます。しかし、8五香には8四桂合、同香、8三金合の二段限定中合の妙防があって逃れるのです。
投稿: TETSU | 2012.03.23 01:59