覚えておきたい推理将棋の基礎知識 5
[2010年10月30日最終更新]
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覚えておきたい推理将棋の基礎知識 5 ミニベロ
■ミスディレクション
予習の2作、解けましたか? もうお分かりのとおり、今回のテーマは「ミスディレクション」です。
推理小説などで使われる一種のトリックで、「犯人は大柄な奴だった」といった目撃者の証言から「成人の男性」を読者に想像させ、実は「バレーボール部の女子高校生だった」という手口です。作者としては「一言も男だとか大人だとかは言ってないよ」ということです。
推理将棋の世界にも古くからこういったテクニックは使われていました。
今では信じられないですが、初期の頃は下記のようなことに私も簡単にだまされました。
- 成り不成りの回数 ・・・攻め方だけだと思っていた
- 王手の回数 ・・・玉方も王手する順に感動した
- 取った駒数 ・・・玉方も当然駒を取るのだが
こんなことは今では当たり前に推理しているので、もうだれもだまされませんが、上記のとおり一番多いのは「攻め方・玉方に関する先入観」のようです。
しかし9手であきらかに狙った「ミスディレクション作品」はあまり存在しませんので、Mixiで出題した拙作を参考作品として使いました。
どこが「ミスディレクション」なのか、さっそく解析してみましょう。
- 5手目は桂頭に不成り
- 6手目は銀頭
- 7手目は玉頭
- 9手目は桂頭
「5手目は桂頭に不成り」実はこれだけなんです。10人に一人でも「5手目は22角不成り」 という先入観で考えてくれたら成功です。作者の狙いは、先手の桂馬の頭の「88角不成り」。「攻め方・玉方に関する先入観」狙いですが、普通にやっては、先手・後手があきらかな「94問題」では不可能、ということで、本作は場所がテーマでした。
▲7六歩 △3四歩 ▲2二角不成 △4二玉
▲8八角不成 △3二玉 ▲3三角打 △4二銀
▲2二角成 (詰め上り図)
もう一つの普通作ですが、一応簡単な二重トリックになっています。
- 9手詰
- 金頭にいた角が最終手で不成りと動いた
- 後手は駒ランク下から着手
- 金銀釘付け
※駒ランク下から・・・ 歩・香・桂・銀・金・角・飛・玉
一つは「攻め方・玉方に関する先入観」ですが、もう一つの狙いは「時間差・移動攻撃」です。
▲7六歩 △3四歩 ▲2二角成 △3三桂
▲6八角 △5二飛 ▲7七角 △4二玉
▲3三角不成 (詰め上り図)
「金頭」は攻め方の「金頭」。そしてその駒が一旦77に移動してから「33に不成り」。「金銀釘付け」の条件は、後手の52金防ぎと、先手の78金から77角の余詰消し。時間差を使った「ミスディレクション」は初めてかもしれません。これくらいしないと、9手の「ミスディレクション作品」はもう作れません。
ところがこれが某ベテランお二人にはまことに不評で、「ミスディレクション」ではなく、出題不可レベルらしいのです。「金頭」の角が直接不成りと動かないと、日本語としてよくないらしいのです。
私としては「途中で動く動かない」は銘記する必要はない、それが推理将棋だと思っていますし、「日吉丸は最後に太閤に出世した」という表現が、途中の藤吉郎を省いていても問題ないので、やや当惑しておりますが、仕方ないのでこの講座で使いました。皆さんの感想はいかがですか?
9手詰の「ミスディレクション作品」は、もうあまり作れないと思いますが、「ミスディレクション風」な作品は、過去にもあります。
推理将棋第8回出題 上級 橘圭伍作 対向射線!? 9手
解説を見ていただければ分かりますが、これは今の目から見たらさほどでもないのに、
当時の感覚では非常に解きづらい手順でした。
推理将棋第36回出題 上級 ミニベロ作 急所は駒頭 9手
最近の拙作ですが、これも「3手目に敵歩頭に突き出す歩」や「2段目の金打ち」を、
「歩頭」と表現して解答者を惑わせています。ちょっとした勘違いを誘発させるのも「ミスディレクション」と言えそうです。いや、推理将棋とはそもそもが「ミスディレクション」を含みにしているのかもしれません。
10手以上では、もっと巧妙な「あくどい?作品」もいろいろと存在します。
推理将棋第12回出題 中級 タラパパ作 ミスディレクション 10手
推理将棋第29回出題 上級 タラパパ作 さらば友よ 12手
最初にこういうことを考え出したのは、タラパパさんかまささん辺りらしいですが、確かに友達失う作品かも知れませんね(笑)。
詐欺師?は、次から次へと新しい手口を考え出すのでした。
では次回までの宿題です。今回も「94問題」です。
- 3手目は歩頭
- 5手目は桂頭
- 7手目は香頭
- 9手目は歩頭に不成り
推理将棋への質問や疑問は、こちらへメールください。
beonworks@jcom.home.ne.jp ミニベロ
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コメント
http://toybox.tea-nifty.com/memo/2009/10/post-077f.html
これを御覧下さい。私の過去の失敗です。表現で誤解を招かせるのは良くない、という例です。過半数の75%(16名中12名の方)には期待通りの解釈をして頂きましたが、25%(16名中4名)の方には完全に条件の誤解をさせてしまっています。
ちなみに、私の意見は「出題不可」ではなく「不採用」です。少なくとも私がパラの担当の間は採用しない、ということです。その理由は「金頭の角は77に移動したのであって、不成で動いた角は77の角だ、けしからん」と言われて、一部の人が推理将棋から去ってしまうことを危惧するからです。
解けなかった人が「けしからん」と思う(去ってしまう)か、「してやられた」と思う(魅力が増す)か、そこが問題です。前者が数%も居ると選題失敗と考えます。
> これくらいしないと、9手の「ミスディレクション作品」はもう作れません。
そんなことは決してありません。この前もDD++さんが即興で作っていましたし。ここだけは声を大にして反対します。9手詰めは詰み形が少ないので手順が重複するのは仕方ないです。しかし、条件の付け方は半無限にある訳で、そこの想像力/創造力に自ら限界を設けることはないと思います。
投稿: 渡辺 | 2010.11.04 23:27
私はまささんの真似をして始めましたので、推理将棋で初めて使われたのは、まささんの「34歩」だったと思います。
投稿: タラパパ | 2010.11.05 05:53
出題不可とした2人のうち1人は私ですね。
これは、出題時に「金頭の角が(直接)不成で動いた」という意味の出題だと解釈をした人には、無解の問題を解かせてしまうことになってしまうため、パズルとして不完全品であると考えるからです。つまり、解を知った後で「これはおかしい」と思うか「してやられた」と思うかとは別のところに問題があると私個人は思っています。
そのため、このような複数の受け取り方がある文章でのミスディレクションは成立し得ないですし、普段の問題もそのようなことがないように、できる範囲で気をつけるべきです。
逆に1つめの例は「桂頭」という表現がどこからどこまでを指すのかは明確なので、ミスディレクションの例として非常に好ましい例だと思います。きれいに作るのはなかなか大変ですけどね。それでも私も渡辺さん同様、きれいな9手ミスディレクションはまだまだ作れると思っています。条件のつけ方はいくらでもあるわけですから。
投稿: DD++ | 2010.11.06 03:27