作品価値と歴史的価値
[2015年6月11日最終更新]
No.1詰将棋100選の記事へのikz26さんのコメントの中に、歴史的価値についての言及があった。
また、多様な価値の中で、現在の目では特に評価の難しいものとして、歴史的価値を挙げることができます。どのような構想であれ、あるいは趣向であれ、形式であれ、なんであれ先行作の果たす役割というのは大きいです。例えば煙詰は現在に至るまで進歩を続けてきたと思いますし、並べてみればきっと現在の煙詰の方が優れているでしょう。しかし看寿の作った一号局、あるいは黒川氏の「落花」をはじめ、そういった先行の煙詰にはその時代の評価があったはずで、現在の目で見てどちらが優れているかを判断するのはやはり正当な評価ではないと思われます。
歴史的価値といっても、歴史をまとめる立場からは初めて登場したのは重要な出来事で価値が高いのが当然だが、ikz26さんがいわれているのは、登場した当時の「その時代の評価」を、No.1を選定する上で考慮すべし、ということだろう。
これについては、古今名作選のようなアンソロジーでは、詰将棋史の解説の意味もあるので、特に重要になるだろうし、歴史は関係なく現在の目でみた名作選というのならば、歴史的価値はあまり重要ではない。つまり、選定意図次第ということになるだろう。
歴史的価値は置いておいても、はじめての作品の意義は非常に大きい。それは、まだ存在しない世界でそれを実現した作者の創造性、オリジナリティ、そして、初めてそれを見た解答者、鑑賞者の感動につながるわけで、それがその時代の評価になってくる。ほとんど同じような作品が後に発表されても、今度は二番煎じということで、評価されないわけである。
もっとも、看寿の煙詰も、全駒は初めてなので二番煎じという人はいないが、無双や妙案の(準)煙あってのものなので、オリジナリティについてはこれらもきちんと評価したいものだ。
ブルータス手筋、森田手筋のような、発表当時は大きな感動を呼んだ作品でも、バリエーションが多く作られるようになった現在では、単なるブルータス手筋、森田手筋だけでは入選も難しいだろう。煙詰も、今では特徴のない煙詰では評価されないが、昔は煙というだけで多額の賞金で募集されたこともあった。
つまり、作品価値というものは絶対的なものではなく、それぞれの時の詰将棋の状況によって変わっていくものである(もちろん評価する人によっても異なる)。そういう意味では、No.1も、いつ誰々がどういう考えで選んだNo.1かということを踏まえて楽しめばよいのだろう。塚田賞や看寿賞の過去の作品でも、今の目で見ればこれが賞?という作品も多いだろうが、その時代や背景を無視して選定に文句をいうのは筋違いというものである。
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コメント
返信ありがとうございます。
歴史的価値という観点にとらわれることなく「今の目で見た」No.1を選んでしまえば、それでこの時代のNo.1選としては問題ない(価値が時代相対的であればこそ)というわけですね。
言われるまで全く気が付きませんでしたが、言われてみると全くその通りですね。私の視野が狭かったようです。
TETSUさんの今の目で見た100選を、ますます楽しみに待ちたいと思います。
投稿: ikz26 | 2015.06.11 16:12