コンピュータがもたらした平等の時代
[2016年7月29日最終更新] 機械創作コンテンツの時代 を追記
詰将棋パラダイス誌1997年4月号-1999年4月号に連載された「毎日がパラダイス」は、詰将棋作家でもあり小説家としても著名な故吉村達也さんが、自身の話から詰棋界のもろもろの課題(コンピュータ詰将棋、詰将棋は数学か小説か、入選とは、規約論争・・・)まで切り込むおもしろいエッセイだった。
詰将棋創作での将棋ソフトの活用では、コンピュータ詰将棋がもたらす暗黒の未来予想(吉村達也 毎日がパラダイス 第5回 運命の神が動き始めた (PDF))を紹介したが、吉村さんは当時のコンピュータ詰将棋の状況を良く見ていて、コンピュータ詰将棋のプラスの面についてもいろいろ書かれている。その一つとして第18回の記事を紹介しよう。
「機械の能力が人間のそれを圧倒的に上回ってくれたおかげで、実力者の前では初心者は小さくなっていなければならないというお稽古ごとの世界にありがちな上下関係は消滅し、本当の意味での平等さが詰棋界にやってきたのです。」
プログラムが囲碁のトップ棋士を大差で破ったことで、職を奪われるのではないかなど、いろいろな分野で不安が語られているが、1998年にすでにコンピュータによる変化のマイナス面、プラス面をしっかり見据えていた吉村さんの慧眼には感心する。一読をお勧めしたい。
20世紀にすでにコンピュータが人間を超えた詰将棋では、暗黒の未来も予想されていたわけだが、実際にはよい循環になり、ITは詰将棋界の発展に大きく寄与している。
人間がソフト・アプリを道具として使いこなすことで、
- 本当の意味での平等さが詰棋界にやってきただけでなく
(上記のPDF参照) - 時間短縮効果で、忙しくて詰将棋から離れていた人が戻ってきたり
(私もその一人) - 鑑賞を中心とした愉しみ方が可能になったり
(自分で解かなくてもソフトで解図させ鑑賞できる) - 新しい詰将棋ファンも大幅に増加したり
(スマホ詰パラの貢献が大きい) - それまでになかったような作品が登場してきたり
(柿木将棋活用の創作はいまでは常識)
と、良いことがたくさん。
さらにソフト・アプリの機能も日々進化しており、鑑賞支援、創作支援など今後もより便利になっていくことが期待される。
詰将棋創作での将棋ソフトの活用でも書いたが、「ソフトの進化は止まらないので、それをいかに活用して楽しめるか考えたいものだ。」
関連情報: 将棋ソフト・コンピュータ将棋 (おもちゃ箱)
詰将棋創作での将棋ソフトの活用 詰将棋創作プログラミング
柿木将棋IX スマホ詰パラ
コンピュータ創作の危険性 2016年6月28日追記
詰工房で、コンピュータ創作の危険性に警鐘を鳴らしている方に話を聞きました。
- 特定ジャンルをコンピュータで全検して、全作品リストを公開することは、そのジャンルに特化して創作している人の楽しみを奪うので良くない
- eurekaでしなくても、開発が続けばそういうことをする人がでてくるかもしれない。だから開発自体をやめるべき
といった趣旨だったでしょうか。ただしコンピュータ使用の創作自体を否定しているわけではなく、柿木将棋はその人が詰将棋を始めたときすでにあったので問題ないとして、自身でも活用されています。
詰将棋創作プログラミング 10 陣内竜堂はいつ出現するかでもちょっと書きましたが、1997年にはすでに「詰将棋の3×3金銀図式の数え上げ」という発表がなされています。「金銀3×3図式は「これにて一件落着」!」(門脇芳雄)となってしまったわけですね。
こういったことに対して詰棋界はどうしたら良いのか。吉村達也さんの考えが毎日がパラダイスの第10回で示されているので、これも参考に紹介しておきます。
機械創作コンテンツの時代 2016年6月29日追記
宮島陽人さんより、機械創作の著作権についてコメントをいただきました。ありがとうございます。詰将棋の場合は機械創作かどうか以前に、あまりお金に絡まないので裁判の判例もなく、詰将棋の著作権があるかどうかも意見がわかれているのが現状です。
柿木将棋IXや詰将棋創作プログラミングのように創作支援ツールとして人間を助けているうちはとにかく、AIが人間の創作技法や評価方法を習得して独自にどんどん作るようになると、困ったことになる人もでてくるかも。著作権は別としても、大量の機械創作コンテンツが出回るようになると、人間が創作したコンテンツでもそれらと差別化できないようなものは埋もれてしまって淘汰されそうですね。
x年後にはスマホAI詰パラが立ち上がり、「1000種(人?)の創作AIが詰将棋を創作、毎日100作追加、入門コーナー、手筋コーナー、上級コーナー、難解コーナー、趣向詰コーナー、構想作コーナー、曲詰コーナーなどなどお好きなコーナーでお楽しみください」 とかなると、解いたり鑑賞して楽しむ人は大喜びでしょうね。解答者と創作したAIが会話できたり、アクセス履歴を分析してその人にあった詰将棋を出題してくれたり、かなり魅力のあるコンテンツになりそうです。
人間創作中心の既存詰将棋メディアは、なくなってしまうかというと、それに対抗していろいろな作品、企画で魅力を増していくでしょうから、よりおもしろくなっていくでしょうね。
こういう時代を詰棋界の発展と見るか、既存秩序の崩壊と見るか、立場や考え方で見方は変わってきそうです。
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コメント
1997年の段階で「機械による創作と著作権」の問題をここまで鋭く書かれていた方がいたとは、
私は詰将棋には疎いもので吉村達也さんのお名前も初めて伺ったのですが、驚きました。
それから18年経過して、日本の著作権法における第一人者である福井健策弁護士が以下の様な、
全く同じ問題意識を持たれた文章を書かれております。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/fukui/737326.html
ただ、97年の場合と異なるのは「人工知能」がより具体的になってきたこと、そして97年の段階では
まだ生まれて間もないか生まれてもいなかった、Apple、Google、Amazon、Facebookの4大企業が
機械創作による著作物を寡占するかもしれない(例えて言うなら詰将棋パラダイス編集部が新たな詰将棋を
すべて先んじて独占してしまう、ということか)、という可能性すら夢物語ではなくなってきています。
とまれ、97年の段階で、すでに現実を20年近く先取りしていた問題意識に出会えたのは発見でした。
ありがとうございました。
投稿: 宮島陽人 | 2016.06.28 21:29