詰将棋創作プログラミング 25 記録に挑戦!
[2018年12月15日最終更新] 正龍馬図式の長手数記録の更新
詰将棋創作プログラミング 25 記録に挑戦!
詰将棋には、いろいろなジャンルの長手数記録や駒数の記録、繰り返し回数の記録など、多くの記録作が存在する。既存の記録作は下記にまとめているので、興味がある方はどうぞ。
ランダム自動生成を活用して、記録を更新する詰将棋を創作できないか試行して、いくつか長手数記録の更新に成功した。
1.ランダム自動生成の課題
これまで、実戦型簡素図式、飛角図式のランダム自動生成を試行してきた。
いずれも、自動生成した候補図の集合から、入選級(出題レベルにある)かどうか人間がチェックして選定する方式である。
ランダム自動生成は、時間に比例して候補図が増加していくので、完全作らしいというだけのフィルタリングでは、あとでチェックする人間の負荷が大きい。そこで、上記試行の中では捨駒や合駒に点数付けした簡易評価を行い、ある程度以上の候補図だけ出力するようにしている。
現状では、まだ候補図の中に含まれる入選級作品の比率は低く、評価機能の充実が課題である。
2.記録作自動生成のメリット、デメリット
評価機能を充実させたいが、詰将棋の評価基準は人によって大きく異なり、設定が難しい、という話をしたとき、詰工房を主催している金子さんから「それなら記録作を創作すれば」とアドバイスをいただいた。
なるほど、記録作なら、記録項目自体が評価基準になるので、たとえば長手数記録なら手数だけを評価基準にして記録を更新できたか判断できる。
ただし、記録作というのは、各項目の条件を満たす多数の詰将棋の中で頂点を極めた作品なので、それを超える作品をランダム生成で見つけるのは限りなく確率が低そうだ。
そこで、記録作の場合、いきなり初形をランダム生成するのは効率が悪すぎるので、条件を考慮しながら逆算するなど、何らかの構成的な手法を確立することが必要なのではないかと考えていた。
しかし、しばらく飛角図式のランダム生成を試行する中で、少し考えが変わってきた。
入選級の作品がある程度の確率でいくつも生成でき、実際おもちゃ箱や詰将棋パラダイス誌で出題され、解答者からも高く評価された。こういう作品が短時間で見つかるということは、飛角図式の世界は思っていたより奥が深く、人間の400年間の営みでは、まだホンの一部しか開拓できていないことを示している。こういう状況であれば、ランダム生成で記録を更新できる可能性もそんなに低くないのではないか。
3.記録作自動生成の取り組み方針
上記を踏まえて、どのジャンルの記録更新を狙うか、そして、どのように創作していくか考え、三つの方針を立てた。
1) 飛角図式関連の長手数記録を狙う
*可能性がありそうなのとランダム生成のノウハウがあるため
2) 記録を意識して条件付けして候補図を出力
3) 人間(私)が条件を満たした整形や逆算が可能か調べる
*いずれは逆算のロジックを実装して、ここも自動化したい
4.飛角図式関連の長手数記録項目
2018年6月現在の飛角図式関連の長手数記録項目とその作品を以下に示す。双玉飛角図式はほとんど開拓されてなく記録更新の可能性も高いが、一般の認知度、アピールを考慮して、まずは単玉飛角図式で検討する。
1)初形の使用駒(盤面+持駒)
2)初形の盤面
- 飛角図式:盤面大駒全駒 - 83手
- 純飛角図式:成駒なしの飛角図式 - 45手
- 龍馬図式:全成駒の飛角図式 - 35手
- 正飛角図式:持駒なしの飛角図式 -(使用駒飛角図式参照) 33手、参考45手
- 正純飛角図式:持駒なし、成駒なしの飛角図式 -(使用駒飛角図式参照) 33手
- 正龍馬図式:持駒なし、全成駒の飛角図式 - 25手
3)初形の盤面と詰上り
- 大駒煙:持駒なしの飛角図式で詰上り3枚 - 33手
- 盤面大駒煙:飛角図式で詰上り3枚 - 45手
- 都大駒煙:持駒なしの飛角図式で詰上り55玉で4枚 - 17手
- 立体飛角詰:初形・詰上り共飛角図式 - 33手
- 立体純飛角詰:初形・詰上り共純飛角図式 - 17手
- 立体龍馬詰:初形・詰上り共龍馬図式 - 33手
4)途中図も含め全局面
- 純大駒図式:全局面使用駒大駒のみ - 25手、参考27手
- 完全立体飛角詰:全局面飛角図式 - 17手、参考23手
- 完全立体純飛角詰:全局面純飛角図式 - 17手
- 完全立体龍馬詰:全局面龍馬図式 - 17手
5.ランダム生成の条件付け
飛角図式のランダム生成では、既存飛角図式からランダムに5作選び、玉と4枚の飛角の配置を玉との相対位置が同じになるようにコピーして盤面を生成、持駒サーチして完全作候補を生成している。また、捨駒や合駒を評価し、一定レベル以上のものだけ出力している。
持駒サーチはかなり時間がかかるので、できるだけ多数の図を調べるために、持駒なしに絞ってランダム生成することにした。また、長手数記録では手順内容は関係しないので、捨駒や合駒の評価はスキップし、手数の長い完全作候補(20手以上)だけをピックアップすることにした。
持駒なしの飛角図式(正飛角図式と呼ばれる)に絞ったのは、正飛角図式は大駒図式でもあり飛角図式でもあるため、上記の全ての記録項目に関係しており、いずれかの項目を更新できる可能性が高まると考えたためである。
6.創作できた記録作
約1か月の試行で数百万通りの配置を試し、TETSUによる整形、逆算の可能性を検討した結果、以下の記録作を創作することができた。
1)純大駒図式の長手数記録作品 29手
作品54 eureka 29手 解答
純大駒図式の長手数記録作品
- 記録展示室 No.124 ★出題
(おもちゃ箱 2018年7月)
「楽しい龍追い 20手台」 - おもちゃ箱だより第36回 記録に挑戦!
(詰将棋パラダイス 2018年9月)
生成された図は4手目の局面の25手だった。そこからTETSUが逆算して記録更新。
2)大駒煙の長手数記録作品 43手(→45手)
本作は、無防備図式、大駒図式、持駒なし、成駒なしの飛角図式かつミニ煙という多重の趣向作で43手という長手数のため、多くの記録を更新した。
大駒煙と共に正純飛角図式の長手数記録も更新。また、大駒図式、使用駒飛角図式、正飛角図式の長手数記録も更新したが、この三つの記録では45手の参考記録作品がある。
作品55 eureka 43手 解答
大駒煙の長手数記録作品(発表時)
- 記録展示室 No.126 ★出題
(おもちゃ箱 2018年7月)
「合駒3枚全て消える 40手台」 - おもちゃ箱だより第36回 記録に挑戦!
(詰将棋パラダイス 2018年9月)
生成された図は53飛が59龍だったが、28角以下の難解な余詰があり、TETSUが修正すると共に生飛車にして純飛角図式にした。
石川英樹さんが、本作を45手に改良することに成功し、詰パラ2018年11月号でeureka・石川英樹合作として発表、上記の記録もすべて塗り替えられた
作品57 eureka・石川英樹合作 45手 解答
大駒煙の長手数記録作品
- おもちゃ箱だより第37回 飛角図式関連の記録
(詰将棋パラダイス 2018年11月)
3)正龍馬図式の長手数記録作品 33手(→35手)
正龍馬図式のこれまでの長手数記録は25手とそう長くないので、20手以上の正龍馬図式に絞って生成、逆算で更に伸ばせるか検討した結果、33手の記録作を創作することができた。
作品58 eureka 33手 解答
正龍馬図式の長手数記録作品
- 記録展示室 No.127 ★出題
(おもちゃ箱 2018年11月)
「秋の大三角? 30手台」 - おもちゃ箱だより第37回 飛角図式関連の記録
(詰将棋パラダイス 2018年11月)
石川英樹さんが、初形配置の工夫により2手逆算に成功し、正龍馬図式の長手数記録は35手に更新された。(2019年3月追記)
7.関連記録作
上記の取り組みとは別に、通常の飛角図式ランダム生成からの逆算で龍馬図式の長手数記録作(41手)もできたので、紹介する。これまでの記録は小林看空氏の35手(おもちゃ箱2017年7月)。本作は奇しくも後半小林作に合流するので、相談して合作での発表とした。
作品56 eureka・小林看空合作 41手 解答
龍馬図式の長手数記録作品
- おもちゃ箱だより第36回 記録に挑戦!
(詰将棋パラダイス 2018年9月)
生成された図からTETSUが4手逆算。
参考記録として、摩利支天「冬の散歩道」41手を2手逆算して43手の龍馬図式にできる(小林看空案)。
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