詰将棋美術館メモ 4 軌跡曲詰
[2023年3月15日最終更新] 5)その他
詰将棋美術館メモ 4 軌跡曲詰
曲詰とは、初形や詰上りの盤面(場合により途中局面も)で、文字、形、模様、対称形などを表現したものだ。しかし、もう一つ、別のタイプの曲詰として、玉など、ある駒の軌跡で何かを表現する作品がある。
例えば、右の図。2013年、巳年の年賀詰としてbrutus710さんが創作したものだ。狙いは龍の軌跡で75→15→11→91→99→79と動き、「巳」の字を表現している。
このタイプの曲詰を軌跡曲詰と呼ぶことにする。軌跡曲詰は最近でてきたものかというと、案外古くから作られている。「周辺巡り」がその代表例だ。ただ、普通の曲詰に比べるとずっと少ない。それは、静的な局面で表現する通常の曲詰と比べて、駒の軌跡はビジュアルに見ることができず、頭の中で想像しなければならないからだ。いわれなければ曲詰と気付かないことも多い。
代表的な棋譜ビューワが玉(あるいは指定した駒)の軌跡を盤面でプロット(マスの色を変えるとか)する機能をサポートすれば、次第に字や形が描かれていくようすがビジュアルに見られて、普通の曲詰よりもむしろ楽しめるかもしれない。そうなれば軌跡曲詰を創作する人もふえてくるだろう。
軌跡曲詰ではこれまでどのような形が描かれてきたのだろうか。こんな形もきれいそうという候補も含めて並べてみよう。
1) 四角形
9×9四角形
いわゆる「周辺巡り」である。ただ、完全な四角形ではなく、はみだしたり単に周辺を回るものも周辺巡りと呼んだりするので、「完全周辺巡り」と呼んだ方が良いかもしれない。完全周辺巡りはたくさん作られていて、無停止で一周する65手の完全周辺巡りだけでもこれだけある。
- 森茂 詰パラ1963年6月 59玉 65手
- 塩野入清一「芝桜」 詰パラ1976年1月 69玉 65手
- 七條兼三 詰パラ1978年8月 16玉 65手
- 橋本樹 詰パラ1979年4月 91玉 65手
- 滝島代士夫 詰パラ1979年5月修正図 96玉 65手
- 護堂浩之 詰パラ1980年4月 11玉 65手
- 大西宏明 詰パラ1980年10月 99玉 65手 (アート No.72)
- 駒場和男「外房9号」 詰棋めいと第24号1988年6月 71玉 65手
(改良図?:近代将棋1990年7月) - やよい おもちゃ箱 2019年3月 51玉 65手 (アート展 No.68)
- やよい おもちゃ箱 2022年3月 54玉 17手 (アート展 No.92)
*玉は四角形、角(馬)は菱型のダブル軌跡曲詰
- おかもと 竹馬 第94番 11飛 33手
*飛による軌跡曲詰 - おかもと おもちゃ箱 2022年3月 11龍 19手 (アート展 No.90)
*龍による軌跡曲詰
7×7四角形
周辺巡り以外の四角形はずっと少なくなる。
- 駒場和男「内房1号」 詰パラ1980年1月 85玉 49手 (アート No.73)
- 岡本正貴「たまき」 詰パラ1990年12月 27玉→28玉 47手
- やよい おもちゃ箱 2019年3月 52玉 49手 (アート展 No.67)
- おかもと 詰パラ1984年12月 竹馬 第67番 28龍 9手
*龍による軌跡曲詰
5×5四角形
- 梅田亮 詰パラ1997年3月 33玉 33手
- 駒場和男「山手線」 詰棋めいと第24号1998年6月 57玉 33手 (アート No.74)
- やよい おもちゃ箱 2019年3月 53玉 33手 (アート展 No.66)
- おかもと おもちゃ箱 2022年3月 33龍 9手 (アート展 No.89)
*龍による軌跡曲詰
3×3四角形
- 村井秀行 詰パラ2008年12月 44玉 17手 (アート No.75)
- やよい おもちゃ箱 2019年3月 54玉 17手 (アート展 No.65)
- やよい「八卦」 おもちゃ箱 2021年7月 54と 17手 (アート展 No.81)
*後手と金による軌跡曲詰
- おかもと おもちゃ箱 2022年3月 44龍 7手 (アート展 No.88)
*龍による軌跡曲詰
2) 菱型(ダイヤモンド)
辺長5の菱型
- OT生「ホームラン作戦」 詰パラ1970年2月 59玉 33手
- 桑原幹男 詰パラ1980年9月 51玉 33手 (アート No.76)
辺長4の菱型
- 「水車」>TETSU アート展示室 No.33 52玉 25手
*玉は菱型、龍は八角形のダブル軌跡曲詰
- 岡本正貴 詰パラ1984年6月 85角 7手 (アート No.83)
*角(馬)による軌跡曲詰 85角→58角→25角→52角成→85馬
辺長3の菱型
- 菅野哲郎「おたまじゃくし」 くるくる展示室 No.356 75馬 7手
*馬による軌跡曲詰 75馬→57馬→35馬→53馬→75馬 - 久留島喜内>TETSU くるくる No.44(妙案79より) 57玉 47手(3周弱)
*本作はもともと軌跡曲詰として作られたものではないので、還元玉でないなど軌跡曲詰としては中途半端なところがある。軌跡曲詰はできるだけノンストップ還元玉で表現したい。 - やよい「遊星歯車」 詰パラ2022年3月 53銀 25手
*玉と銀によるダブル軌跡曲詰(玉の軌跡は辺長2の菱型)
53銀→44銀→35銀→46銀→57銀→66銀→75銀→64銀→53銀
54玉→45玉→56玉→65玉→54玉
辺長2の菱型
- やよい アート展示室 No.51 53玉54角 17手
*玉と角によるダブル軌跡曲詰
53玉→44玉→55玉→64玉→53玉
54角→45角→56角→65角→54角 - 梶下雄貴 詰パラ2015年7月 36角 7手 (アート No.84)
*角による軌跡曲詰 36角→27角→38角→47角→36角
3) 周辺巡りのバリエーション
周辺巡りの変形1
- 墨江酔人「妹」 近代将棋1982年12月 15玉 57手 (余詰)
周辺巡りの変形2
- 墨江酔人「姉」 近代将棋1982年12月 92玉 57手 (余詰)
2作ペアで発表されたもの。残念ながら2作とも余詰。これを見て思いついた形が八角形と三角形。まだ作例はないようだ。
*三角形は2015年10月にアート展示室で発表された(下記)。
三角形
- 野曽原直之 アート展示室 No.43 11玉→19玉→91玉→11玉 49手
4) 直線巡り
横一線(5段)
- u-maku おもちゃ箱 2013年5月 15玉 33手 (くるくる展示室 No.233)
15→95→15ときれいに1往復して詰む
u-makuさんには、5段6段にまたがる太い横一線の作品もある(くるくる展示室 No.161)。私は、詰方の玉が17から97に移動する作品(「おもちゃ箱」 No.49)を作ったことがあるが、これも横一線の軌跡曲詰といえよう。
縦一線(5筋)
- やよい おもちゃ箱 2019年1月 59玉 33手 (くるくる展示室 No.374)
59→51→59ときれいに1往復して詰む - やよい おもちゃ箱 2019年4月 59玉 17手 (アート展示室 No.69)
玉が59→51の縦一線だが、それだけではなく2枚の馬が菱形一回転するトリプル軌跡曲詰
縦一線の変形(ジグザグ)
- りらっくす おもちゃ箱 2019年5月 51玉 33手 (くるくる展示室 No.380)
51、42、53、44とジグザグに59へ、そこから48、57、46、55と再びジグザグに51に戻る1往復軌跡曲詰。 - りらっくす おもちゃ箱 2023年1月 52玉 37手 (くるくる展示室 No.460) new !
52、43、54、45とジグザグに58へ、そこから47、56、45、54と再びジグザグに62に戻る1往復軌跡曲詰。
対角線
19から91の対角線で1作見つかった。
- 八尋無段 新将棋天国第20号(1982年4月)より 19玉→91玉 31手 (アート No.77)
おもちゃ箱 2007年3月 (くるくる No.181)
まだ少ないので、91から19の対角線で1作作ってみた。スーパー詰将棋にもなっている。
- TETSU おもちゃ箱 2015年6月 (くるくる展示室 No.294)
11から99の対角線。
- TETSU おもちゃ箱 2018年11月 (くるくる展示室 No.370)
99から11の対角線。
- TETSU おもちゃ箱 2018年10月 (くるくる展示室 No.366)
- TETSU おもちゃ箱 2023年1月 (くるくる展示室 No.456) new !
99~11~99の対角線往復。
- やよい おもちゃ箱 2019年8月 (アート展示室 No.73)
惜しい作品として、頭の2手を省けば11から99まで一直線の二級天使さんの作品をあげておく。
- 二級天使 詰パラ1974年3月 12玉 19手
11から99ではないが、22から88の斜一線の銀の軌跡曲詰。
- TETSU おもちゃ箱 2019年1月 (くるくる展示室 No.371)
横一線+縦一線
中央の十字でできればすばらしいが、楽なのは端の組み合わせか。しかし、端だと何か中途半端な感じで、ここまで作ったら周辺巡りにしてしまいそうだ。
5) その他
文字や石垣(自陣全格巡りとか)などいろいろできそうだが、あまり記憶にない。きれいな作品があったら詰将棋美術館で紹介したいのでコメント、メール(omochabako@nifty.com TETSU)などで教えてください。
石垣
- 松下拓矢「五重槍」 アート展示室 No.100 16玉→44玉 5×3石垣 29手 new !
*玉は5×3石垣、歩は5×4石垣のダブル軌跡曲詰 - 永安克志「終演」 アート展示室 No.34 25玉→87玉 7×3石垣 41手
*玉は7×3石垣、と金は5×4石垣のダブル軌跡曲詰 - 金少桂 記録展示室 No.96 24玉→25玉 8×3石垣 47手
パルス波
- 本間晨一「パルス波」 アート展示室 No.82 17玉→96玉 27手
折り紙の手裏剣
- 須藤大輔「折紙手裏剣」 アート展示室 No.99 76玉→76玉 折り紙の手裏剣 17手 new !
文字
- 松下拓矢 アート展示室 No.97 角:「W」、玉:「一」 13手 new !
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